日田彦山線BRT バス転換までの道程
作成 2020年6月12日
はじめに
元々はこの3案の中から、どれが最もベストなのかを議論するはずだった。結論が出るのに、約3年。
BRT転換までの道程
東峰村を初めとする沿線自治体が、なぜココまでして、災害復旧に対する地元負担を徹底的に拒否するのか。その前に、ココまでの経緯を確認しておこう。
東峰村区間の問題点
最後まで足を引っ張っていた東峰村区間の扱いを分析してみた。
不採算区間に対する災害復旧を行う場合、通常であれば地元自治体も復旧費用を捻出して、JR線としての存続を続けるが、なぜかココは沿線自治体の協力が、全く得られない。これには下記の理由が考えられる。
1)単なる無理解
地域輸送を確実に行うための交通サービスを行う観点から鉄道があるというのに、少なくとも一部の東峰村・添田町・日田市の住人にしてみれば、気動車が走って、駅舎があるだけで幸せという程度の認識なのだろう。感情論まみれのアンケートを見ても分かるとおり、鉄道を私物化しているようにも見て取れる。これではJR九州が住民に対して理解を示すことは、まずない。
2)現状を理解した上での拒否
1)が論外として、いわゆる「地域輸送としての役割を果たしていない」ことを理解しておきながら、敢えて反対しているケース。この理由は至って簡単で、JR九州が鉄道方式での復活を行う場合は、ネットワーク維持の観点から、毎年1.6億円以上の収支改善を図ることを前提としている。つまり、元々こうした地域では、その1.6億円以上の収支改善が見込めるとは到底思えず、継続する場合は、東峰村・添田町・日田市に対して、その分を捻出することを意味している。
人口減に悩まされる添田町・東峰村・日田市にしてみれば、交通モードは既に自動車交通に転換しており、沿線自治体の住人が定期的に列車で通勤するような土地柄ではない。仮にコレがJR九州が求めてきた交渉カードの一つだとしても、人口減に悩まされる地域に対し、収入の少ない市町村税(場合によっては福岡県・大分県による県税)を投入した所で、中長期的な視点で見れば割に合う投資とは、到底言えない。
このことを図星として突かれた東峰村にしてみれば、JRが提示する「年1.6億円以上の収益改善(≒年1.6億円以上の村税をJRに納付)」というのは、とてもじゃないが受け入れることなど出来やしない。そこで、色々と理由付けて「そこは見逃してくれ!」と叫ぶしか抵抗手段が無く、叫べば叫ぶほど、沿線とは無関係の地域にしてみれば、「日田彦山線の沿線自治体は非協力的だ」というワガママさばかりが強調されていく。
岩屋駅前にプラカードを立てて、必死の抗議活動を行うものの、コレではただのワガママにしか見られない。
このままでは戦力外通告一直線になるだけで、せめて災害復旧費用は出すぐらいの姿勢を見せんとさ。
3)現実的手段を受け入れない「空気」
住民のごく一部は、バス転換やBRT方式での再出発を容認する声も見られるが、そうした輩がいた場合には、人口が2,000人未満の小規模なムラ社会にしたら、どうなるかは想定が付く。恐らく、村八分を恐れて、現実的選択を主張することすら出来ない空気が蔓延している恐れもある。
4)東峰村が抵抗していた当時の活動など
いずれも現実を直視したくないという、集団心理。逆を言えば、表向きにはJR全額自己負担を主張しつつ、ワザと戦力外になるのを見越して、JRの鉄道施設とは無関係のオブジェクトに関しては、東峰村が保有する方向で話を進めている可能性も考えられる。
当初はJR九州も含め、福岡県・大分県も、ネットワーク維持の視点から鉄道での復活を前提とした見解を示していた。しかしながら、復旧後のネットワーク維持に必要な、具体的な沿線自治体への負担金をJR側から提示された後は態度を硬直化。基本的には鉄道での復旧を視野に入れているものの、2019年4月24日の会議以降、なぜか「住人の皆さまの意見をお伺いします」といった具合でフェードアウトしている。
建前としては「鉄道での復旧を前提としつつも、JRと沿線自治体との意見の隔たりが大きいことから、意見交換を積み重ねて、出来るだけ早期に福岡県・大分県としての見解を出したい」としているが、重ねてBRT・バス転換の可能性にも言及している。つまり、今の段階では特にJR線の概念が無くなる東峰村を中心にガス抜きさせておき、根回し工作として、JR九州の自己負担で実現可能+ネットワーク維持のための交通モード転換がもっとも現実的な「BRT方式での再出発」という選択を選ぶ公算が高いと見ている。
県立大学の調査によると、特に鉄路が廃止になる恐れのある東峰村において、年齢層としては50~80代以上の高年者・高齢者の割合は、ザッと見ても約8割に達しており、いわゆる若年者層はほんの僅かしかいない。
買い物難民が指摘される地域柄だが、実際のところ、どのようにして買物をしているかと尋ねたところ、殆どがマイカーで隣の朝倉市・日田市方面へ移動して用件を済ませている。つまり、最初から自動車交通に依存した土地柄であり、普段から頻繁に日田彦山線を利用しているという確証は皆無に近いのだ。
資料より引用。マイカーでの移動が約7割を占めており、公共機関の利用は全体の0.1割程度。
資料より引用。ごく数名はJR線・西鉄バスを使うものの、大半は使わない。
一方で、JR線が廃止されることに関してはほぼ満場一致で「イヤ」と叫ぶ。
資料より。運転免許を持ち、その上で自動車運転をするのは「ほぼ毎日」。
こうした現実を知っておきながら存続を訴えているため、ただのご都合主義である。
筑前岩屋駅近くに停車中の代行バス。ココへは1日1往復入る程度で、訪問した当時も利用客はゼロ。
宝珠山駅に設けられたバス停。次のバスが来るのが2~3時間後と、路線バスとしての役割を果たせてない。
土日祝日が6往復、平日でも7往復、それでいて恐ろしい程に間隔が空いている(使用している路線バスはマイクロバス)。つまり、そもそも自動車での移動は行っても、バスで移動を全く行っていない恐れ。これでは代行バスも不要と判断され、戦力外通告を受けた後は路線バスが皆無の「買い物難民」地域となる見通し。
JR発足後、日田彦山線と同様に戦力外に追い込まれた地域は、どのような存続運動を続けたのだろうか。
1)JR西日本・三江線(江津駅~三次駅)
三江線の場合も、時代の変化で交通モードが自動車移動に転換したことに加え、江の川沿いをコの字のように描きながら設計されており、あまりに遠回りし過ぎて鉄道輸送など最初からムリな話だった。
ただ、そうした状況下であっても、JR西日本としては無人化の推進やワンマンカー導入、区間別運行などのダイヤ見直しなどで対応し、一方の三江線沿線自治体も、旅客誘致や通勤・通学客へのアフターフォロー、災害時も復旧に加勢するなどして全力的にサポートを続けた。が、結局は人口減少社会・自動車交通に依存した地域相手に適うはずがなく、2016年9月1日に戦力外通告(廃止は2018年4月1日)。
但し、三江線が政治的な意味合いで誕生したことから、沿線自治体も一方的にJR西日本に負担を押しつけるようなことは極力避け、寧ろ、一体となって存続を模索してきたことから「BAD END」とはなったものの、ちゃんと両者が形成合意を果たした上での営業終了となったため、後味はさほど残らずに済んでいる。これは良い意味での戦力外。
2)JR北海道・日高線(鵡川駅~様似駅)
2015年1月の爆弾低気圧で、海沿いを通る鵡川~様似の鉄道施設が破損し、JR北海道だけでは鉄道復活が困難なほどに補修費が膨れ上がることが判明したことから、沿線自治体にも復旧費用を捻出するよう、JRから打診を受けたのが出発点。日田彦山線と同様、元々が沿線自治体の人口減少社会に悩まされており、そこに追い討ちをかけるかのように、2016年の台風上陸で二度の災害に巻き込まれる。
修復費だけでも約86億円、その後の沿線自治体に掛かる負担が年間13億円~にのぼることから、JR北海道は自前で運用することが困難な線区と判断。自治体とJR北海道との間での亀裂が高まり、自治体が猛烈に足掻くようになる。一方で、廃止を見込んだ違う交通形態への変更を模索する住民もいるなど、実に存続するか否かで2~3年以上も議論が進められた。
その後、各自治体ごとに交渉を進めた結果、鉄道ありきでの復旧から徐々に姿勢を崩していき、2019年11月現在では浦河町を除く自治体がバス転換を容認する方向になりつつある(≒事実上の戦力外通告)。
東峰村側による猛反対が続き硬直状態が続いたが、福岡県側はBRT方式への転換を進めるべく、県知事による鉄道復旧断念を東峰村長に伝達した。その上で、県議団の独自案で大分県との境目となる宝珠山駅までの区間を専用道として整備することや、超党派の県議によって沿線自治体の地域振興策を考えるプロジェクトチームを立ち上げるなど、水面下で調整を行っていたという。
その結果、5月26日に東峰村長による正式表明でBRT方式を選択し、村議会もそれに同意したことから、約3年間続いてきたBRT転換を巡る騒動は、ひとまず終止符が打たれる形となった。長かったばい……。
運用開始後の課題点
※ブログからの転載となります。
交通系ICカードでの乗車。BRT気仙沼・大船渡線の場合は、原則としてバス車内のみ使える「odeca」を導入し、通勤・通学客のアシストを行っている。odecaと他の交通系ICカード(Suicaなど)とは基本的に互換利用が出来ない。つまり、ハナからBRT区間でしか使えない交通系ICカードである。
一方、今回のBRT日田彦山線では、JR九州がSUGOCAを利用できるようにするとは考えにくい。理由として、
これらが挙げられる。もしかしたらポンチョを運行するバス会社が西鉄系となり、それでいて日田バス・西鉄バス筑豊でも導入されているnimocaで乗車可能となるなら、BRT気仙沼・大船渡線の考えに近い「nimocaでBRT日田彦山線だけ利用可能」という可能性も、なくはない。が、どちらにしても添田 or 夜明・日田で乗り継ぎとなった時にJRきっぷを別途用意する必要があるとなれば、磁気券での乗車か直接運賃支払いのどちらかが主流になるのは必至となるため、BRT日田彦山線ではSUGOCA(nimocaなど)は利用不可+乗り継ぎ特例も適用されなくなると思った方が良いだろう。
気になる運賃だが、元々、BRT日田彦山線はJR九州の自腹で行うという前提になっているため、特に消費税率や基本運賃の改定をしない限りは現行と同じになるだろう(BRT気仙沼・大船渡線の時と同じ)。ただ、今回は福岡県の要望に応じる形で、筑前岩屋~宝珠山を専用道で整備することになっているため、この部分を利用者負担に転換となれば、単純に考えれば基本運賃の上昇は避けられない(2020年現在で添田~夜明が660円なので、転換分を反映となれば700~750円ぐらいになる?)。
他にも、BRT気仙沼・大船渡線の時に見られた、鉄道区間との乗り継ぎに対する特例や、BRTであっても定期券での利用が可能になるのか、青春18きっぷ・満喫きっぷなどの乗り放題きっぷによる乗車も可能かという課題も考える必要がある。
参考文献:高台の駅は階段80段 専用道延伸にJR九州、懸念も 日田彦山線復旧
(西日本新聞 2020年5月27日付朝刊)
途中の大行司駅は、ホームと駅舎がある場所が80段近くもあり、バリアフリー対策なども全く施されていない。しかも東峰村役場に近いのはこの大行司駅であるため、役場へのアクセスは「あくまでも村民や東峰村の意見を尊重」という立場から、かなり度外視している。
元々、JR九州は「大行司は高台にあるから利便性が悪く、BRT駅として使うには不適切」という考えから、敢えて筑前岩屋で一般道に戻る計画を立てていた。そのため、アノ石橋にバスが通るだけでもマシという考えで生まれた延伸策は慎重に考えないといけない。
麓へどうやって降りるのやら。バリアフリー工事も割に合う投資とは言いにくい。
対策としては2つ。一つは「バス専用道を通る時間帯と、一般道を通る時間帯で分ける」というもの。
通勤・通学時間帯は利用者の利便性を勘案し、筑前岩屋⇔(一般道・東峰村役場前)⇔宝珠山を行き来するが、それ以外の時間帯はバス専用道で大行司に停車。これならば、JR九州が提示した利便性向上と、東峰村が尊重する専用道の有効活用どちらも意見がまとまる。一番これが現実的な落しどころではないかと見ている。
もう一つは「大行司駅の駅ホームを大きく低くする」というもの。現在の80段近くもある階段を出来るだけ低くし、その分、専用道区間の坂道をやや急傾斜にする。既に専用道は鉄道ではないため、自動車の道路交通に支障が出ない範囲(最大傾斜5%を目安に検討)で改築し、大行司駅のホーム部分のみ平らにしてポンチョに乗りやすくする。
専用道自体の改築が必要になるため、極めて多大な県税が必要になる上、バリアフリー化にしても階段とは別の通路を作らねばならなくなる。人口減少社会の東峰村で、それは実現出来るものなのかは微妙だし、もしもBRT自体が戦力外となった時は、JR九州が懸念する鉄道の負の遺産となるのは必至だ。
あくまでも臨時。
2020年3月のJRダイヤ改正でコッソリと追加された改善点の一つで、新たに小石原村庁舎(旧・小石原村役場)前にも臨時駅が追加されている。BRTで復活するにしても、専用道区間の工事には数年程度の期間を要することから、当面はココにも代行バスが停車する。駅の近所には道の駅小石原もあり、小石原焼を含めた文化拠点が数多くある。
廃駅後は大行司駅・宝珠山駅で一旦下車した後、西鉄バスに乗り換えてココに来るしかないが、元々、東峰村は完全な自動車交通に依存した地域社会で、バス利用も殆ど使われていない。ユニバーサル・サービスの維持という側面で考えたとしても、BRTが完成した後は必然的に廃駅となり、再び西鉄単独のバス停に戻るものとみている。
参考文献
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